米国債格下げ懸念と円高
円高が止まらない。円相場で戦後最高値1ドル=76円25銭を記録した3月17日以来、約4カ月半ぶりの円高・ドル安水準(一時1ドル=79円29銭)に迫った。背景には、米政府の債務上限引き上げ問題、その米財政不安が株安に波及していることや、米国債が初めて格下げされるのではないかとの懸念である。週末には米債務上限引き上げ協議を巡り、前向きな動きが見られたが、今後は米上院と下院で法案を可決する必要がある。米上下両院の可決が8月2日の期限に間に合えば、8月3日からの多くの米政府サービス停止が回避できる。無事可決されればとりあえず米ドルは反発しよう。
米国債の債務不履行(デフォルト)は、回避される見通しとなったが、問題は米国債の格下げ懸念が残っていることである。
7月29日に米格付け会社ムーディーズは、8月2日までに米政府の債務上限が引き上げられなくても、即座に米国債を格下げすることはないとの考え方を示したが、米格付け会社S&Pでは、7月中旬に債務上限が引き上げられても抜本的な財政赤字削減策が示されなければ、格下げすると警告している。もし米議会で与野党が妥協したうえで債務上限引き上げ案を可決しても、赤字削減は小幅なものになり、格下げの可能性は残る。格付け最上位の「AAA(トリプルA)」にある米国債が格下げされたら、長期金利の急上昇は必至である。年金基金などの投資家には、内部規定で高格付けの債券しか持てない規定も多い。格下げによって投資家が一斉に米国債を売れば、債券価格は急落し、米国の信用は低下、金利が急上昇する。金利が上昇すれば、お金を借りにくくなって、投資や個人消費が伸び悩み、米国経済を冷やしかねない。米国債の発行残高が9.6兆ドルもあり、世界の資金が集まる基軸債権だけに、米国債の信用が低下すれば世界のマネーが行き場を失うことになる。
さらに、29日に発表された米国の4〜6月期の実質国内総生産(GDP)速報値が、前期比で1.3%増にとどまり、市場予想を下回ったことで米経済の減速が鮮明となった。米政治の混迷に加え、米財政と米景気の先行き懸念が、中長期的にドル売りを招くことになろう。
日本でも29日の衆院財務金融委員会で、野田佳彦財務相が「日本経済の実勢からかけ離れて円が強くなりすぎている」と発言し、円高への警戒感を示した。ただ、今回の円高は米政治の混迷が原因であり、これを是正するための協調介入は難しいと考えられる。急激な円高進行は日本の輸出企業の業績を圧迫し、東日本大震災から回復途上の日本経済に大きな打撃を与える。産業界から政府・日銀に対して円売り介入を求める声が強まることになろう。8月5日の日銀会合で、資産買入など追加措置の行方や、株安・円高が進んだ場合の介入期待が一時的な円高を食い止める可能性はあるが、中長期的な円高傾向は止められないと見ている。
今週は金曜日に米7月雇用統計を控え、米債務上限引き上げ問題や欧州周辺国の財政問題の進捗状況、さらに株安と円高が進んだ場合の日銀の介入警戒に注目が集まると見ている。